「月子」

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 そのままズルズルと部屋の中に引きずり込まれてしまった。  うちと同じ間取りだが、僕の部屋と位置を同じくする6畳間はカーペットが敷かれ、ソファやテレビが置かれたリビングになっていた。  夜の仕事をしている。 そう言う先入観で彼女を見ていた僕は、その部屋の雑然としながらも落ち着いた雰囲気に少し驚いていた。     古い安アパートを出来る限り居心地よくしようと2DKの間取りを1LDKのように引き戸を外してアレンジしたり、壁紙はうちと同じベージュなのにアイボリーのカーテンに深紅のカーペットが洒落てるし、何だか細々と雑貨が飾ってあった。  女の巣作り本能って言うのか?うちの母親にはまるで見当たらないよな。   少し濃いめのアイボリーのソファの上にはカラフルな刺繍のクッション、それにファッション雑誌に紛れてインテリア雑誌があった。  ソファの背もたれに掛けられたトレンチコートはついさっき月子さんが脱いだものだ。    ベランダから入ったその場所で立ち尽くしている僕から、キッチンに行って冷蔵庫を開けている月子さんの姿が間仕切りのモンステラ柄のロールカーテンの隙間から見えた。  トレンチコートの下に着ていたのはワインレッドの超ミニのドレス。    床に置かれた何かに手を伸ばした彼女の後ろ姿から慌てて目を逸らす。    この状況を悪友が知ったら、何オイシイ事になってんだよ!乗っからないでどうすんの?とか興奮して騒ぎ立てるところだろうか。     確かに絶好のシチュエーションかも知れない。    相手は水商売で、綺麗なおねーさんで、男馴れしていて、彼女の部屋に二人だけで、彼氏が踏み込んで来る危険性も無くて‥‥。    彼女のいない健康的な男子中学生なら、たとえ多少ビビったとしても、これから待ち受ける、もしかしたら誘惑的な状況を期待してしまうのが当然かも知れない。
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