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いや、全然おかしくない。
その年代の女の子なんて片手で数えるくらいしかいなかった。
でも小さい頃から知ってる友人達同士で実際そういうことになってるなんて、想像したこともなかったから。
沈黙を破ったのは空気の読めないわらしだった。
ずっと窓から空を眺めていたけど、置かれたおにぎりをちらりと見て眉を寄せる。
「…毎夜毎夜、よくもまあ。これだけ取引を重ねればどうなるか未だ分かっておらんようだな」
「どうぞ、召し上がれ」
「ふん」
目の端でわらしがおにぎりに向けて手を合わせるのが見えたけど、私は夏生から目を離さなかった。
夏生も固まったまま瞬きもしない。
女郎さん達は淡々とお酒の支度をしているけど、興味津々なのが隠せられないくらい意識をこちらに向けている。
ぱちん、と炭が爆ぜた音を皮切りに夏生が狼狽え始めた。
「…波瑠、あの……」
「うん」
「……」
再度沈黙。
押し黙る、というより、言葉が喉につかえて出てこないようだ。
そんな絶望的な顔してないで、ひと言「実は元カノなんだ」とか言ってくれれば済むのに。
「…美緒たちがお風呂上がっちゃう頃だから、もう行くね」
「……うん」
そんな夏生を置き去りに座敷を出てしまう私は、酷い奴なのかもしれない。
気にしない素振りを見せたかったのに、上手く表情も作れなかった。
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