◇ 横永大学病院にて

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・・・ 午前中診療の最後に、飛び込みできた新患を呼んだ。 目は落ち窪み、クマをつくり、髪はボサボサで土気色の女性だ。 あらかじめ書いてもらったアンケート用紙には、吐き気、倦怠感、だるさ、時々物忘れなど記入されている。 付き添いなし。 一人で来ている。 新患は最初に体調の悪さをアンケートどおりに話した。 イズミは原因を探るため、「最近生活が変わったとか、人間関係で悩んでいることはありますか?」と訊いた。 新患は『待ってました!』といわんばかりにイズミに向かって恋人の裏切りを訴えてきた。 「私のほかに10人も女がいたんです! もうショックで、ショックで。お金も貸しているのに返してくれないんです・・・」 ここへ入ってきた時はこの世の終わりかと思ぐらいの顔だったが、全部話すと晴れ晴れとなった。 多分周囲にこの悩みを話せる相手がいないのだろう。 イズミに聞いてもらってようやく鬱憤を晴らせたようだ。
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