Ⅱ #2

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Ⅱ #2

「美咲……」 自分を呼ぶ声が、聞こえる。 「美咲、早く起きなさい!」 美咲は寝返りを打ちながら、重い目を開けて ぼんやりと声のする扉を見た。 「母さん、おはよう」 そう言った美咲を、ちらりと横目で見ながら、 母親が言った。 「バスが来るわよ! 早く起きなさい」 美咲は、 布団から飛び起きた。 「えっ……?」 ずかずかと美咲の部屋に入って、 カーテンを開ける母親を眺めながら、美咲は驚いて返事をした。 「バスって何? 母さん 私、今日仕事休みだよ」 怪訝な顔で、母親は美咲を見つめた。 「何、言ってるの? 寝ぼけてないで早く支度しなさい。 後、30分もないわよ! 作業着、洗濯しといたから、 さっさと着替えちゃいなさい」 普段から、物静かで穏やかな母親が、 声を荒げてしゃべっている。 寝ている美咲の部屋に、勝手に入ってくるような事も、 今まで 一度だってなかった。 早く起きろとヒステリックに、 まくし立てるように話す母親を、 訳がわからず、 美咲は呆然と見つめていた。 「ほら、早くしなさい!」 母親が美咲に、 乱暴に服を渡す。 せき立てられるように、美咲は 渡された服を手に取り のろのろと着替えを始めた。 母親は ベッドの横で、 腕を組みながらイライラと見下ろしている。 「早く起きて、 ご飯食べちゃいなさい!鞄は?」 美咲がバッグに目をやると、 母親が真っ青になってバッグを見つめた。 「美咲! あなた、これどこで手に入れたの?」 立ち竦んだ母親が、 美咲のバックを見つめている。 「早く、 荷物を入れ替えなさい!!」 乱暴にクローゼットから黒いバッグを取り出し、美咲に 叫ぶように言った。 いったいどうしたの…… 喚きたてる母親に 美咲は 訳もわからず、 言われたままに自分のバッグから 財布や化粧ポーチを取り出し 荷物を移し始めた。 黒い作業着に身を包み バッグの中身を入れ替えながら 美咲は 急かす母親の声を遠くに聞いていた。 黒い作業着―― 黒いダウン―― 黒いバッグ―― いったい…… 何が起こってるの? 美咲が、手にした化粧ポーチを見て、 母親が又、声を荒げた。 「美咲……!! あなた…… いったいどうしちゃったの?」 ヒステリックに叫ぶ母親を 美咲は口を閉ざして見つめ返した。
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