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反論したのは秋山だ。怒りの表情を見せている。
「殺人なら少しは抵抗したはずだろう。だが部屋にはそんな跡はなかった」
部屋は整然としていた。それに鍵もかかっていたので殺人だとは露ほどにも思わなかった。
「首を絞めて殺害された場合、首に抵抗の跡が残ります。首にかかった凶器をはずそうとして、結果的に自らの首を引っ掻いてしまう。しかし遺体にはその跡はなかった」
「だったら……」
「睡眠薬を飲まされたのです」
「ちょっと待ってください。私が入れたとでもいうのですか」
春木の反論に冬川は首を振る。
「どのカップが誰に配られるかは、あなたにはコントロールできません。密室の話をしましょうか」
睡眠薬を混入した人物には言及しないのかと、俺は焦れた思いだ。
「現場が密室であったことは皆様も周知のことです。それも自殺説を促す根拠でもありましたが。一見不可能な状況ですが、実は事態は至ってシンプルだったはずでした。しかし別の人間の手が加えられた事で事態は難解になりました。犯人は部屋を出る時にもちろん鍵を持ち出した。朝に皆で遺体を確認した時に気づかれぬよう鍵を落とせば、それだけで一見密室に見えますからね」
俺は冬川が何を言いたいのか理解した。
「ところが第三者がその鍵を回収してしまったのです。この山荘の宿泊室は全て同じ構造で内鍵です。ですから池野さんが中から鍵をかける事は可能でしたが、同じく誰にでも外から部屋を開けることができたかもしれないという奇妙な状況になってしまった」
「その誰かさんは何のために持ち去ったんだよ」
林田は疑問を口にした。
「鍵には殺人犯の指紋が確実に残っている。部屋に入った時、手袋をしていた人間はいなかったはずです。犯人を庇ったのですよ。そうですよね春木さん。言い逃れはできませんよ。なぜならあなたが鍵を拾ったところを夏海さんは見ていたのですから」
春木は目を見開いて俺の方を見た。しかし何も言わない。
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