進藤ハルヒトの悲劇

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 2014年1月3日の19時。とある駐輪場でズボンやアウターのポッケを何度も確かめている青年がいた。彼の名は進藤ハルヒト。何の変哲もない男子学生である。 「高身長のイケメン。しかしなぜか彼女はいない」  自分で言うな。 「あー、やっちまった」  進藤はつぶやく。彼はバイト先に家と自転車の鍵の両方を忘れてしまったのだ。なんと間抜けな男なのだろうか。  進藤が現在いる場所からバイト先までは片道でも電車を乗り継ぎ30分以上かかる。貧乏性な彼は鍵のかかったままの自転車を押して帰る事にした。  ちなみに彼の服装を詳しく述べると、上から青のニット帽、黒ぶちの伊達眼鏡、ピンクのストール、黒のピーコート、薄いブラウンのチノパン、ダークブラウンのブーツである。  なんとも珍妙で怪しい格好なのだろうか。  とにかく彼は自転車を押し始める。正確には後輪についた鈍く光る荷台の辺りを掴んで持ち上げて、前輪を転がす形だ。
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