進藤ハルヒトの悲劇

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「おおふ」  意味不明の吐息らしいものとともに彼が足を止めたのは出発から5分も経たないうちだった。予想以上に腕と指先に負荷がかかり、たまらず歩みを止めたのである。  駐輪場から家までは、自転車をこいで5分強。徒歩では20分かかる。この調子では帰宅に1時間はかかると思われた。彼は奮起して再び愛車の尻を持ち上げる。  更に5分後。周りの目が気になり、進藤ハルヒトはまたしてもその場にとまった。 (これじゃあまるで自転車泥棒じゃねえか!)  彼のすぐ横を、30代とおぼしきサラリーマンが歩き去った。進藤を横目にしながら歩いて行ったのは言うまでもない。 (泣きそうだ)  さすがに本当に泣きはしないが、そういった心境ではある。
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