ある秋の殺人

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「団さんが死んだ時、私は彼と電話していた」  割りこむように発言した。刑事は澄ました顔で続けた。 「そう。あなたの証言がネックでした。一応証拠もある。鈴木の携帯には通話記録があり、しかも発信基地局も家のすぐ近くでした」  一応の部分を強調した。しかし、私は勝ち誇るように言い放つ。 「彼に犯行は不可能です」 「例えばあなたと鈴木がグルだとしたらどうでしょう」 「は?」  思わず間抜けな声を出した。 「電話を繋いでおけば履歴は残る。それだけでいい」 「証拠は?何もないでしょう」 「月島さん。鈴木のアリバイを証言した時なんと言ったか覚えていますか」 「もちろん。彼は鈴虫の鳴き声が五月蝿いと言っていました。確かに聞こえていました」 「それはおかしい」 「おかしい。何がでしょうか」 「鈴虫の鳴き声というのは電話機で拾えない程高音なのです。数値にして約四五〇〇ヘルツ。あなたに聞こえたはずがないのですよ」  口の中は水分がまるでなかった。湯呑に手を伸ばすと、それを遮るように平田は言った。 「証言を翻すなら今ですよ。このままではあなたは偽証罪に問われますよ 」  有無を言わさない鋭い視線だ。 「グルというわけではありません。彼が電話してきて一方的にやったのです」  私は諦めて白状した。 「それに付き合うこともなかったのでは?現にあなたは犯罪の片棒を担がされているではありませんか」  彼は不思議そうな顔をしていう。人間はそれほど単純にはできていないのよ。この刑事は全てを暴いたというわけではなかったらしい。                                     【完】
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