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俺と林田、それからループタイの男の三人で池野さんの冷たくなった体を降ろした。男は冬川と名乗った。錯乱した秋山は春木に連れられて部屋に戻った。
池野さんの首筋には、細く痛々しい跡がくっきりと残っていた。
「なんで自殺なんてしたんだ」
「わからない。昨日もいつもと変わらなかったよな」
林田と俺が池野さんの死に呆然としている間、冬川は部屋中を観察していた。小物入れの中を全て確かめ、サイドテーブルに置いたカーテン紐を手にとり、ベッドを子細に観察していたのだ。
「あの、何か。池野の体を降ろすのを手伝ってくれたのは御礼を言いますが」
「あなた方は彼女が自殺だと考えているようですが」
「そうです。どう見てもそうでしょう」
冬川と林田に割って入るように、従業員が林田を呼んだ。去る前に冬川に一瞥をくれていった。
「ああ、冬川さん?何か気になることでもあるんですか」
「気づきませんか。遺書が見当たりませんよ」
「え?」
確かにそれは見当たらなかった。まさかこの男は殺人を疑っているのだろうか。サスペンスドラマでもあるまいし、くだらない考えだと思った。
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