檻の中の黒い手

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  新宿のKホテルの一室で、富山県警の元刑事、板倉泰造(58)が殺されていた。発見したのはフロント主任の吉川で、チェックアウトの時刻が過ぎても客室を出て来ないので、寝ているのかと思い電話をしてみたが応答がなかったので、起こす為に客室に出向いた。―ノブには“Don't disturb”の札も掛っておらず、ノックと共に声を掛けてみたが返事がなかったので、業務規定により鍵を開けた。 ―板倉はホテルの寝間着姿で仰向けで倒れていた。検死の結果、死因は脳挫傷。ライティングデスクの角に後頭部を激しく打ち付けたものだった。死後、10時間が経過していた。つまり、殺されたのは昨夜の24時前後ということになる 新宿△署の桐生隆史は事情聴取をする為にホテルに出向いた。 「―ええ。発見したのは10時5、6分頃です」 如何にも、ブランドホテルのフロント主任らしく、吉川は七三分けの髪型で、ツルツルした顎には一本の剃り残しもなかった。 「昨夜は何時頃、帰って来ました?」 整髪に欠いた頭を桐生は中指で掻いた。 「…11時40分位ですか」 吉川が考えるような顔をした。 「一人でしたか」 「ええ。鍵を渡すときに酒臭かったんで、どこかで飲んで来たんでしょ」
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