檻の中の黒い手

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「電話はありましたか」 「え。ありました」 その返答に、必死でメモを執っているノッポの相棒、三島を見上げると、 「何時頃?」 桐生が早口になった。 「帰って来られて間も無くです」 「男?女?」 桐生は更に早口になった。 「女です」 気持ちがいいほど吉川は明確な受け答えだった。 「いくつ位?」 「…さあ、声だけでは何とも言えませんが、20代後半から30代後半ぐらいですかね」 …何だよ、幅があり過ぎだよ。折角、褒めたばかりなのに。ホテルマンなら、声で年齢を判断する研修もしろよ。 「話の内容は?」 「…そちらに、富山県の板倉という男の人が泊まっているはずですが、と。確かに住所は富山になってましたし、他に板倉さんは居ませんでしたので、電話を繋ぎました」 「どんな感じの人でした?」 「うむ…はきはきした感じです」 「…尋ねて来た人は居ませんか」 「それは判りません。フロントを通さないで直接、客室に行かれる方もいらっしゃいますので」 「うむ…何か、不審な客は居ませんでしたか」 「さあ…ただ、気になるお客様は居ました」 その言葉に桐生は反射的に鋭い眼を向けた。 「どんな?」
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