第7話

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母親の違う弟がいるという話を聞いたのは、小学6年の時だった。 「花菜!お母さん明日仕事お休みしたからっ」 夜、お母さんが慌ててたように喪服を用意していた。 「誰か亡くなったの?」 お母さんは気まずそうに動きを止める。 「……怒らないでね?」 「……話によるけど」 「あんたの、お父さん」 「え?!ほんとに?!」 驚き過ぎて、かえって冷静になる。 「お父さんと連絡取ってたの?」 「……まあ、たまにね」 「聞いてないんだけど」 「……ごめん」 お母さんがすまなそうに呟く。 お父さんに会ったのは、一年ぐらい前に一回だけ。 レストランで一緒に夕御飯を食べた。 何を話してよいかわからず、お父さんが聞いてくる事に受け答えするだけ。 というより、お父さんの事を何も知らないのに、話題なんてあるわけもない。 「あの人、癌だったのよ。もう会えないだろうから、花菜に会っておきたいって言って、あの時会ったの」 「…………」 実感がわかない。そもそも、一回会っただけの父親が亡くなったからといって、涙が出てくる事もなかった。 「明日お葬式?」 「今日お通夜で、明日が告別式だって」 「誰が教えてくれたの?」 「……今の奥さんよ」 「え?!向こうは知ってたの?」 「お母さんも驚きよ。まあ、浮気していたわけじゃないしね。死んだら伝えるように言われてたみたい」 お母さんは、お父さんと付き合っていて、別れてすぐに妊娠がわかった。 お父さんには伝えずに産んだ。
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