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「ごめんな、傷つけたな」
花菜は首を振る。
「私もきちんと話さなくちゃいけなかったんです。言いたい事も聞きたい事も言わずに避けて……」
あんなに嫌な思い出だったのに。
意外と冷静に話せている自分が不思議だった。
「……あの時、聞きたい事ってなんだった?」
「え?」
「んー、何となく、今なら聞ける気がして」
「あ……。私も、今なら言える気がします」
先輩がくすりと笑う。
その顔は、今でも魅力的だと思った。
「あの時、先輩の中で私って何でしたか?」
「……」
「彼女でしたか?」
あっさり、口から出る。
あの頃はどうしても言えなかった事が、こんな簡単に言えるなんて。
小池先輩は、ばつが悪そうにため息をついた。
「……俺さ、あの頃は、けっこういい加減だったから。いろんな女の子と遊んでたんだよね」
「……」
「花菜の事、慣れてなくてかわいいなって思ってたよ」
花菜は唇を噛んだ。
「今さらだけど、ごめんな」
先輩は申し訳なさそうに項垂れる。
「……あの、いい加減だったって。今は?大切な子がいるんですか?」
「……うん。彼女いるんだ」
照れたように笑う先輩を見て、ほっとする。
「よかったですね」
「ありがとな。花菜は?」
「え?」
「いるの?彼氏」
「いない……です」
「好きな奴は?」
言葉がつまる花菜に、先輩は吹き出す。
「わかりやすいな。がんばれよ」
「……はい」
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