第1話

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ちらほらと落ちてくる白い結晶の一つが手の平に乗る。  ひんやりと伝わってくる冷たさが何故か心地よく感じる。  触れてすぐに融けて行く。まるで、心にしみ込んでいるかのように。  手の平で融けた結晶を握る潰すように、強く閉じて視線を空へと向ける。  どんよりとした今にも落ちてきそうな灰を水彩絵の具の黒と一緒に水に溶かしたような雲から無数の結晶が降ってくる。  白い息に混じってため息が漏れる。  今年も最高気温を更新して猛暑日の連日続いた夏も終わり、足早と冬が訪れた。大勢の熱中症患者を出した夏とはまるで真逆のようにコートやダウンジャケットを手放せない。  ダウンジャケットの袖を少しだけ捲り、銀色に輝く傷の増えた腕時計で時刻を確認する。  既に七時を回っていて、指定された集合時間から十分ほど過ぎていた。
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