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沖田の助け舟にこくこくと必要以上に頷き、脳が揺れるような感覚に頭が痛くなる。
後頭部を押さえながら、きこはようやく落ち着き始めていた。
目の前の男を、沖田は土方と呼んだ。
それは恐らく、新撰組副局長となる、土方歳三のこと。
じゃあ、やっぱりわたしは今、江戸時代にいるのだろうか。
150年前の、京都に。
茫然と呆けているきこを、土方は無遠慮に眺めまわす。
肩に届くミディアムヘアに、デニムのサロペット。
平成では一般的な姿でも、江戸時代の文化からすれば変質極まりない。
きこが沖田を不審者と認定したのと同様に、土方はきこを危険分子と認識した。
「おい、女」
「はいっ」
居丈高な土方の呼びかけに、竹の子のように背筋が伸びる。
土方は、見るからに怖い。意地も性格も悪そう。
保身のため、生きるために、こいつに媚びねばならぬ、と頼りないきこの本能が告げていた。
お行儀よく、そつなく、真っ当に。それはきこにとって、空を飛ぶより難しい。
土方は、唇を歪めてにやりと笑った。
「これからおまえの詮議を行う。着いて来い」
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