はじまり

11/11
前へ
/61ページ
次へ
沖田の助け舟にこくこくと必要以上に頷き、脳が揺れるような感覚に頭が痛くなる。 後頭部を押さえながら、きこはようやく落ち着き始めていた。 目の前の男を、沖田は土方と呼んだ。 それは恐らく、新撰組副局長となる、土方歳三のこと。 じゃあ、やっぱりわたしは今、江戸時代にいるのだろうか。 150年前の、京都に。 茫然と呆けているきこを、土方は無遠慮に眺めまわす。 肩に届くミディアムヘアに、デニムのサロペット。 平成では一般的な姿でも、江戸時代の文化からすれば変質極まりない。 きこが沖田を不審者と認定したのと同様に、土方はきこを危険分子と認識した。 「おい、女」 「はいっ」 居丈高な土方の呼びかけに、竹の子のように背筋が伸びる。 土方は、見るからに怖い。意地も性格も悪そう。 保身のため、生きるために、こいつに媚びねばならぬ、と頼りないきこの本能が告げていた。 お行儀よく、そつなく、真っ当に。それはきこにとって、空を飛ぶより難しい。 土方は、唇を歪めてにやりと笑った。 「これからおまえの詮議を行う。着いて来い」
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加