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目が覚めると、そこは別世界でした。
小説や、漫画に出てくるような一文。まるっきり物語的で、現実離れしている。
普通なら、たとえばある人が自室のベッドにくるまって眠ったのっしたら、次に目が覚めるのもまた、同じベッドの中のはずだ。
富士山の山小屋で眠った人は富士山の山小屋で、東京のホテルで眠った人は、やっぱり東京のホテルで目覚めるだろう。
そんなの、確認するまでもない、当たり前のこと。
だからこそ、きこは瞬きをする。
「…………え?」
布団を跳ねのける。古びてもっさりとした、茶色。……茶色?
動揺が極まりもんどりうって、思わず布団に座り込む。
「……どこ?」
小さな神棚と、額縁に飾られた書と、レトロで小洒落た和ダンスのある部屋だった。
昨日の夜、自分の部屋の机で、本を読みながら寝てしまったはずなのに。
それなのに、ここには当の机も、それどころか本棚も、白いカバーのベッドも、きこの部屋にあるはずのものは何ひとつ、見当たらない。
きこはまったく見も知らぬ場所で、ぐうぐうと眠っていたらしかった。
――目が覚めると、そこは別世界でした。
「なん――」
「目が覚めたようですね」
居ても立ってもいられず、とりあえずは、なんで、どこ、どこ、と騒ぎ回るつもりで腰を上げかけたとき、障子の向こうから声がした。
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