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「いや、考えてもみてくれ。
そもそもこんな幼い女子が、なにか良からぬことを思いつくものだろうか?
たしかに空から降ってきたというのは不可思議だが、そのことに関しては春田くん自身も、よく分かっておらぬ様子。
それに、あんなに綿密な数字を、その場凌ぎの虚言で、ああも流暢に紡ぎ出せると思うか?
わたしはそうは思わない」
「そ、そうだそうだ――」
近藤を味方につけ、にわかに勢いづいたきこは、加勢するように声をあげる。
そして、土方の形相を見るなり、即座に萎縮した。般若だ。
そんなきこにいらだちを隠そうともせず、土方は大きく舌打ちをする。
「百歩譲って、こいつが嘘を吐いているように見えないとする。
じゃあ、なんだ?
あんたにはこいつが、真実を語ってるように見えんのか?
そんなわけねぇだろ、このガキは、150年も先の時代からやって来たなどと抜かしてんだぞ!」
「そうです、近藤さん、早急すぎる判断は危険です。
身なりや口振り、性別に左右されずに、この者自身を見極めなければいけない」
細面の男が、土方に続いて近藤を諌める。
弁が立つ二人に返す言葉が見つからず、近藤はむん、と唸りを上げた。
近藤さん、頑張って! 般若の土方に負けないで!
そんな近藤を、きこは内心、全力で応援する。
それがささやき声となって漏れ出ていることに、本人だけが気づかない。
土方さんの顔が、更にぐわっとなった。ぐわっと。なぜ? などと思っている。
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