詮議の場

9/22
前へ
/61ページ
次へ
「いや、考えてもみてくれ。 そもそもこんな幼い女子が、なにか良からぬことを思いつくものだろうか? たしかに空から降ってきたというのは不可思議だが、そのことに関しては春田くん自身も、よく分かっておらぬ様子。 それに、あんなに綿密な数字を、その場凌ぎの虚言で、ああも流暢に紡ぎ出せると思うか? わたしはそうは思わない」 「そ、そうだそうだ――」 近藤を味方につけ、にわかに勢いづいたきこは、加勢するように声をあげる。 そして、土方の形相を見るなり、即座に萎縮した。般若だ。 そんなきこにいらだちを隠そうともせず、土方は大きく舌打ちをする。 「百歩譲って、こいつが嘘を吐いているように見えないとする。 じゃあ、なんだ? あんたにはこいつが、真実を語ってるように見えんのか? そんなわけねぇだろ、このガキは、150年も先の時代からやって来たなどと抜かしてんだぞ!」 「そうです、近藤さん、早急すぎる判断は危険です。 身なりや口振り、性別に左右されずに、この者自身を見極めなければいけない」 細面の男が、土方に続いて近藤を諌める。 弁が立つ二人に返す言葉が見つからず、近藤はむん、と唸りを上げた。 近藤さん、頑張って! 般若の土方に負けないで! そんな近藤を、きこは内心、全力で応援する。 それがささやき声となって漏れ出ていることに、本人だけが気づかない。 土方さんの顔が、更にぐわっとなった。ぐわっと。なぜ? などと思っている。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加