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元来ひとが良く、呑気な原田と永倉は、これまでのやり取りできこに対する警戒心も薄れてきていた。
難解な数式を含む話だ、理解に努めることはとうに止めている。
それよりも、小さな少女が健気な様子で土方に歯向かう姿を見ていると、危機感どころか、笑いが込み上げるのだ。
原田よりいくらか分別のある永倉が、原田の膝をバシバシと叩くことで、お互いになんとか堪えているのだった。
彼らのそんな性格を、多くの人は馬鹿と呼ぶ。
きこと同じ匂いのする者たちである。
「春田さん……といいましたか?
あなたは、先の時代からやって来たと主張する。
けれど、そんな話は、到底信じられるものではない。
ですから、なにか、証拠を示してください」
悪気のないきこの暴言も、永倉と原田の存在も完膚なきまでに無視しながら、細面の男はきこに対して提案をする。
この場で、いちばん冷静に事を見分し、堅実な対応をできるのがこの男だ。
きこは未だ知らないが、その名前は山南敬助。
後に新撰組副長となる人物だった。
「証拠ですか?」
きこは、きょろきょろと自身の周りを見た。
続いて、サロペットのポケットを探る。
ほこりが出てきただけだった。
そこで、その場に立ち上がると、くるりと一回りして見せる。
「じゃあ、ほら!
見てください、この服とか、未来的でしょう?
この時代にはないでしょう?」
「たしかに、見かけない格好ではありますが……。
異人であれば、そのような装いをしていても不思議はない。
そう考えると、あなたがメリケン国とつながりの深い、間者である可能性が浮かんできますね」
「な、なにーっ」
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