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こいつ、手ごわいな。なんて意地悪なことを考えるの。
きこは山南を、土方に次ぐ敵と認識した。
そして、ここでようやく、うっすらと焦りを覚える。
この時代。
もしも信じてもらえなかったら。
スパイや何かと思われたら。
一体、わたしはどうなるのだろう。
殺される、或いは切腹?
いやいやっ、絶対に、なんとしても、信じてもらわなければ困る。
そう思うと、焦燥は一気に体中を駆け巡った。
「ち、違いますよぅ、本当なのに!
なんなら、わたしが知ってる情報をぜんぶお伝えしますよ、土方さんが、むかし奉公先の女性を妊娠させちゃったこととか!」
「おまえ……!」
きこは学習をしない。
加えて、追い詰められて気が高ぶっているため、土方の眼光や怒声に対しても、怯えがない。
今はまさに、生死を別つ決戦なのだ。
気迫負けなどしていられない。
きこは馬鹿ではあるが、知識が乏しいわけではない。
歴史的に有名な新撰組のことだって、ちゃんと知っている。
勉強はできるのだ。
「他にも、知ってるんだからね、俳句を詠んでることとか!
あと、近藤さんは口に握りこぶしが入るとか、原田左之助さんは切腹したことがあるとか!」
「すげぇ! すげぇよ!」
「この子、本物だ!」
きこの言葉に原田と永倉が騒ぐ。
沖田と近藤も目を瞠ってきこを見た。
雨でも上がったように、部屋中の空気ががらりと変わる。
これまで無言で聞き役に徹していた男たちも、それぞれ驚きを口にした。
ただ、土方と山南だけは、ほとんど射殺さんばかりの目つきになってきこを睨みつけている。
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