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きこと近藤の間にだけ、なごやかな雰囲気が流れる。
きこはやはり、怒りや焦りを持続させることが苦手なのだった。
殺気立ってこちらを睨む男たちに囲まれているというのに、気がつくといつもの通りにへらへらしている。
それは近藤も同様のようで、ここが詮議の場であるにも関わらず、探るべき対象のきこに対して、無防備に感情を見せてしまう。
それを引き戻すのが、土方の役目だ。
「おまえの言い分は分かった」
祝賀の空気に、低い声音が割りこんだ。
すとん、と落ちるような感覚で現実に引き戻される。
見ると、変わらず腕を組み、眉間にしわを刻んだ土方と目が合った。
「沖田、そいつを元の部屋に連れていけ。
しっかりと見張ってろよ」
「え? え、え」
喜ぶか、質問されると思っていたのに、土方はもう、きこに言うことはないようだった。
ろくな反応を示しもせず、あまつさえ追い払おうとしている。
きこは戸惑い、困惑した。
助けを求めるように沖田を見ると、いつの間にかすぐ傍らに立っており、安心させるように微笑む。
「今から、春田さんの処遇を決めるのです。
大丈夫。きっと、悪いようにはしませんよ」
「え、あ、でも……あれ?」
結局、土方の指示に逆らえるきこではない。
沖田になだめられ、ちらりちらりと近藤を振り返りながらも、うながされるまま部屋を出て行った。
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