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二人の足音が遠ざかるのを待ってから、土方は深く深く嘆息する。
「どう思う?」
ちらりと山南に目をやると、同じように息を吐いている。
先ほどまでまとっていた、研ぎ澄ました刀のような雰囲気が、氷がとけるように柔らかくなっていくのが分かった。
「まず、間者ではないでしょうね。
メリケン国にしても長州にしても、壬生狼ごときに間者を忍ばせるとも思えませんし……。
第一、彼女は間者にしては……いえ、ただの女子と考えても、行動や発言に……著しく賢慮が欠けている」
山南は真綿にくるんだような物言いをしたが、ようするにたいした馬鹿と言いたいらしい。
土方は短く首肯して同意を示した。
あれだけ嘘なく感情をさらけ出し、怪しさを隠そうともせず、わけの分からないことを平気で言い募る。
あれは間者になり得ないだろう。
そもそも、あそこまで中身をむき出しにして生きている人間を、幼子以外に見たことがない。
「そうだな。だが、あいつの言ったことは到底信じられねぇぞ。
なんなんだ、あれは」
「……先の時代から来ただの、会津と薩摩が手を組むだのというのは苦し紛れの虚言としても、事実、あの娘は空から落ちてきたのでしょう?」
「ああ、間違いねぇぜ!」
山南の視線を受け、永倉は力強く頷いてみせる。
「でもよ、あの子の言うこと、なんか小難しくってよく分かんなかったな!」
褒められたことではないのに、原田は大口をあけて笑っている。
こいつも馬鹿なのに。馬鹿同士でも意思疏通はできないものなのか。
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