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「……軟禁」
斎藤が、独りごとのようにぽつりとこぼす。
普段寡黙なこの男は、あまり人と馴れ合うことをしない。
かといって隊の中で常に浮いているわけでもなく、けれど感情を人に悟らせることのない、不思議な雰囲気を持っているのだった。
斎藤の言動には一切の無駄がなく、それによりひと言ひと言の影響が大きい。
原田、永倉などの呟きとは、重みがまるっきり違うのだ。
それは堅実、忠直という斎藤の人柄によるものでもあり、まだ年若いこの男は、近藤たちから厚い信頼を得ている。
「屯所内で自由に泳がせながら、幹部を監視につける」
「たしかに、それが良案だな。
本人には保護とでも伝えて、後は家事手伝いでもさせときゃあ良い。
幹部を交代で見張りにつかせる。くれぐれも気づかれるんじゃねぇぞ。
ひょっとすると……いや、なにも信じてるわけじゃねぇが、あいつは使えるかもしれねぇ。
そうなったときのために、不信感を抱かせちゃならねぇからな。
あの話も、適当に合わせとけ」
「ただ、隊士たちへの説明には困ったものですね。
この男所帯にたった一人の女子ですから、いやでも目を引きます。
風紀を乱すわけにもいきませんし、彼女をここへ置くための、皆が納得する根拠が必要になる。
しかし、あんな嘘八百を並べ立てるわけにもいかない……」
山南は思案するように顎へ手をやる。
これまで柔らかな表現を選んでいた山南だったが、ついに嘘八百と言い切ってしまう。
本人は無意識なのだろうが、心を許した仲間内で、このようなふとした瞬間に垣間見せてしまう本音が、この鋭敏な男の可愛らしいところである。
土方は、それと分からぬていどに口角を上げて、ちらりと山南を見遣った。
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