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弾かれたように立ち上がって、障子を見すえる。
入りますよ、と断ってそれを開いたのは、妙な風貌の男だった。
面立ちは柔和で爽やかなものの、長い髪をポニーテイルに結んでいる。
袴のような着物を身につけ、腰には刀らしきものを下げていながら、こちらを見て微笑む。
怖い。
「……どなたですか?」
男は優雅な所作できこの前に正座した。
じりじりと後退しながら尋ねる声は、きん、と尖っている。
男を見る眼差しは、きっと鋭い。それでいて、腰は引けているのだから滑稽だ。
対して、男は実に朗らか、好意的に見えた。
「あ、すみません。いきなり驚かせてしまいましたよね。
わたしは、沖田総司といいます」
「……沖田」
「はい。わたし、あなたが降ってきたのを見ましたよ」
「は?」
どこかで聞いたことのある名前だ、と思った。
思ったけれど、そんな思考は一瞬のうちに消え去ってしまう。
代わりのように、間の抜けた声が出た。
「すごかったですよ、本当に驚きました。
だって、まさか空から人が降ってくるなんて――」
「あの、ええと、何の話ですか?」
思わず遮ると、沖田はきょとんとした面持ちできこを見つめる。
本当に不思議そうに、首を傾げて。
「もちろん、あなたの。
はじめは天女さまかと思ったんですよ。もう、みんな大騒ぎです」
「ふざけないでください、わたしが、空から降ってきたとでも言うんですか?」
「ええ、だからそう言ってるじゃありませんか」
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