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「住み込みの女中ってことにすればいい。……いや、幹部の身寄りとするか」
壬生浪士組に女中はいない。炊事も洗濯も、隊士たちが自らこなしている。
女手が欲しいのはやまやまだが、女中を雇い、給金を支払う余裕などないのだ。
監視下のきこを女中として起用すれば、明らかに浪士組の負担が減る。
しかし土方には、きこがうまく女中をこなせるとは思えなかった。
女子である以上、さすがに家事自体には問題がないだろう。
けれど、大所帯での炊事や洗濯は、個人の規模とはわけが違うのだ。
仕事の段取りや手際のよさ、正確さなどが求められる。
女中業に必要なそれらすべてを、きこはまったく有していないように見えた。
幹部の身寄りとしてしまえば、きこが嘘を吐いていた場合の対処が、面倒になりはする。
処罰するにしろ、追放するにしろ、きこのその後を隊士たちに知られてはならないからだ。
幹部の身寄りが処罰されるのでは、まずい。
しかし、それを差し引いても、仕事のできない女中を雇うより、身寄りに簡単な家事手伝いをさせる方が、まだ説得性のある説明に思われた。
「そうですね」
土方と同様のことを思ったのだろう。
山南は苦笑を浮かべて首肯する。
「幹部の身寄りとでも言った方が、詮索は避けられるでしょう。
問題は、誰の身寄りとするかですが――」
「俺でも良いぜ!」
原田が勢いよく挙手をして、名乗りをあげる。
話の流れをよく理解していないだろうに、やけに元気が良い。
この男所帯において、唯一の華となるきこに近づこうという下心か、単に珍しい闖入者という非日常を楽しんでいるのか。
どちらにしても、原田はまず、有り得なかった。
頭が鈍いという点において、ふたりは兄妹のように似通っているが、そんな現実性は求めていない。
馬鹿と馬鹿が掛け合わさって二乗され、面倒になるだけだ。
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