詮議の場

19/22
前へ
/61ページ
次へ
「住み込みの女中ってことにすればいい。……いや、幹部の身寄りとするか」 壬生浪士組に女中はいない。炊事も洗濯も、隊士たちが自らこなしている。 女手が欲しいのはやまやまだが、女中を雇い、給金を支払う余裕などないのだ。 監視下のきこを女中として起用すれば、明らかに浪士組の負担が減る。 しかし土方には、きこがうまく女中をこなせるとは思えなかった。 女子である以上、さすがに家事自体には問題がないだろう。 けれど、大所帯での炊事や洗濯は、個人の規模とはわけが違うのだ。 仕事の段取りや手際のよさ、正確さなどが求められる。 女中業に必要なそれらすべてを、きこはまったく有していないように見えた。 幹部の身寄りとしてしまえば、きこが嘘を吐いていた場合の対処が、面倒になりはする。 処罰するにしろ、追放するにしろ、きこのその後を隊士たちに知られてはならないからだ。 幹部の身寄りが処罰されるのでは、まずい。 しかし、それを差し引いても、仕事のできない女中を雇うより、身寄りに簡単な家事手伝いをさせる方が、まだ説得性のある説明に思われた。 「そうですね」 土方と同様のことを思ったのだろう。 山南は苦笑を浮かべて首肯する。 「幹部の身寄りとでも言った方が、詮索は避けられるでしょう。 問題は、誰の身寄りとするかですが――」 「俺でも良いぜ!」 原田が勢いよく挙手をして、名乗りをあげる。 話の流れをよく理解していないだろうに、やけに元気が良い。 この男所帯において、唯一の華となるきこに近づこうという下心か、単に珍しい闖入者という非日常を楽しんでいるのか。 どちらにしても、原田はまず、有り得なかった。 頭が鈍いという点において、ふたりは兄妹のように似通っているが、そんな現実性は求めていない。 馬鹿と馬鹿が掛け合わさって二乗され、面倒になるだけだ。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加