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土方はしばし呆然とした。
さっきの一連の流れは、提案ついでに土方をからかっていただけなのか。
こういった、時たま見せる無邪気な一面が、山南が皆に慕われる理由であるかもしれない。
しかし、土方の反応など分かり切っていたとも言いたげな、いたずらっぽい笑みを浮かべる山南は、やはりひとが悪い。
「春田くんは、そうですね……わたしの義弟の姪……いや、妹とでもしましょうか」
それでも、きこを自分の血縁として紹介するのは抵抗があるのか、山南は微妙なつながりを引き出してくる。
近すぎず、遠すぎない距離設定は見事であるが、それには多分に山南個人の都合も関係しているだろう。
「そうか。
トシが適任と思ったが……たしかに、山南くんと春田くんはなんだか、こう、ぴったりな印象があるな!
言われてみれば、本物の家族のようだ」
近藤は、嬉しそうな笑顔で何度も頷く。
山南ときこが家族のようだなんて、誰も言っていなければ思ってもいない。
きこは明らかに山南を警戒している様子であるし、山南は山南できこを鋭く問いただしていたのに、どこをどう見ればそのような結論に至るのか。
まったく、仕方のない大将だ。
土方は、本日何度目かのため息を吐いた。
けれど、近藤を見遣る眼差しから、親しみの色がぬぐわれることはない。
これから、京で名声を得ようというときに、空から降ってきた思わぬ闖入者。
かしましく、頭の悪い、面倒事のかたまり。
危険分子に違いないと思うのに、すぐに処分できないことが組にとっても、土方にてっても負担である。
問題はまったく解決しないが、どんな状況にあれ、自分たちの方向性は変わらない。
土方はもう一度、ゆっくりと息を吐いた。
昼下がりの温かな空気の中に、吐息が溶けて消える。
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