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「……っ」
喉の奥から、押し殺したような悲鳴が漏れる。
その手を振り払い、逃げようとしても、女の力は男には叶わない。
沖田はほっそりとした痩身に見えるのに、暴れるきこに対して、まるで子どもにするかのような対応を見せる。
「離してっ!」
「逃げ出したとあれば、詮議の場でのあなたの立場が悪くなってしまいます」
「いや!」
「突然空から降ってきたあなたを、おいそれと京の町に放すわけにはいかないんです。
分かってください、わたしだって手荒な真似はしたくない」
「そんなの、信じられるわけないでしょ!」
一切の抵抗が無駄だと知ると、きこは開き直ったように沖田を睨み上げた。
興奮して、頭に血がのぼったのかもしれない。
それとも、ついぞ体験したことのない危機に陥ると、人間は案外気を強く持てるものなのか。
いずれにしても普段のきこならば、見も知らぬ他人に対して、こんな強気な態度に出ることはなかった。
「空から降ってきたなんて嘘ついて! そんなわけあるか!
もっとまともな嘘つけよ、ばかたれ!」
口汚く罵詈雑言を吐きながら、自由になる右手を振り回す。
がっ、と鈍い感触がして見ると、きこの拳が沖田の顔面にストレートを決めていた。
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