はじまり

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「ありがとうございます。 でも、大丈夫ですよ。この手ぬぐい、あなたのお気に入りなんでしょう?」 きこの表情から本心を察して、沖田は楽しげに笑う。 一方のきこは、自分の利己的な願いが露見しているとはまさか思わない。 ありがたくハンカチを引っ込めようかとも思ったけれど、沖田の顔面は明らかに大丈夫な様相を呈していなかった。 片手で器用にぬぐってはいるが、血はまだ止まっていない。 「う……いいえ、使ってください」 「でも――」 「ぽたぽたです」 押し問答の末、ハンカチを受け取ったのは沖田だった。 申し訳なさそうにしながらも、鼻を抑える。 そうしながら少しくぐもった声で、珍しい手ぬぐいですね、などと言った。 なんの変哲もない、タオル地のハンカチを。 「こんな手ぬぐいは初めて見ました」 「えっ」 沖田の言葉に、忘れかけていた疑念が顔を出す。 そうだ、と思った。沖田さんって怪しいんだった。 顔を殴ってしまった罪悪感と、それを笑顔で許してくれたことから、悪人ではないと思い込んでいたけれど、ふと冷静になってみれば、沖田は着物を着ているし、帯刀しているし、嘘を吐くし、ここは見も知らぬ部屋であるし、安心できる要素など、なにひとつとして有り得ないのだった。
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