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「わたしたちが怖いですか? でも――」
「わあああああっ!」
見る間に顔色を失くすきこを見て、沖田は拒絶された子どものような顔で笑いながらも、気遣うように声をかける。
それを遮るように、大きな大きな声が出た。
きこは普段から、喜ばしさや驚きなどで興奮すると、叫びながら駆け出してしまいたくなる。
それが高じると、壁倒立をしたくなる。どうしてなのかは分からない。
友人たちに奇病と呼ばれる、きこの癖だ。
予想もできないような状況に陥っても、それは変わらないらしかった。
「なんで! なんで!
沖田さんは江戸時代の人でしょう、なんでここにいるの!」
「ど、どうしたんですか! 落ち着いて!」
突然かしましく騒ぎ始めたきこを、沖田はなんとかなだめようとする。
汚れていない左手できこの肩をつかみ、強く揺さぶる。
きこは沖田を見上げ何事か必死に叫ぶが、支離滅裂で要領を得ない。
その姿は、頭の悪い獣のようにすら見える。
「わたし、なんでここにいるの! どこ、ここどこ? わああ――」
「どうした、総司!」
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