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ラブレスが紫苑の頭をサッカーボールよろしく蹴飛ばすと、紫苑の体は床に叩きつけられた。
おれはラブレスに向かって引き金を引いたが、再びアクセラレータを起動した奴は難なく銃弾をかわしてみせた。
「なるほど。垣原刀治、貴様が生きている限り紫苑はおれのものにはならないようだな」
「だったら素直に諦めな。しつこい男は嫌われるぜ」
おれは撃たれた足を引きずりながら立ち上がると、ラブレスと互いに同時に拳銃を構えることとなった。
すると、紫苑が起き上がりラブレスの意表をついて奴の脚に渾身の体当たりを繰り出すと、ラブレスの体が大きく傾いた。
その隙におれは奴に向かって引き金を引こうとするが、あろうことかラブレスは紫苑の首を鷲掴みにして、彼女の体を盾にした。
おれは発砲をためらった。
「撃てないのか? こいつはおれと同一の存在だぞ。なぜこいつも同様に憎まない。こいつもろとも撃てばいいものを」
そうだ。今ここで紫苑もろともこいつを撃てばすべてが終わる。おれの十二年の戦いに終止符が打たれ、こんな危険な仕事からも足を洗える。
今引き金を引けば……
「カキハラ! 撃って!」
だが、紫苑とすごした日々がおれの脳裏をよぎった。
はじめておれをパパと呼んだ日のこと、朝起きたらいつの間にかおれのベッドに潜り込んでいたこと。楽しそうにテレビを観たり、うまそうに蟹炒飯を頬張ったりしている姿や、はじめておれの前で笑った表情。野生動物を保護したいという夢。
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