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わざわざおれに知らせるということは、奴の手に紫苑が渡ることはラブレスにとっても都合が悪いようだ。
「紫苑はいずれ、自らの意志でおれといることを望むだろう。それまではせいぜい家族ごっこでも楽しんでいろ」
そういい残して、ラブレスの足音は玄関のほうへと向かっていった。
奴の気配が消えると、紫苑は緊張の糸が切れて、途端に腰を抜かした。荒い呼吸をなんとか整えているようだ。
こいつはおれに、自分ごと撃てといいやがった。おれにそんなことができるとでも思っていたのか。
おれは紫苑の肩を掴むと、無理矢理こちらを向かせて、平手で頬をぶん殴った。
こいつは、自分が殴られた意味がまるでわかっていないようで、目をうるませながらこちらを見ている。
「カキハラ……何で殴るの?」
「殴られるより銃で撃たれたほうがよかったのか?」
紫苑は何も答えずに目を伏せた。
ウォルターはこいつを喉から手が出るほどほしがっているようだが、こいつにそれほどの価値があるとは到底思えない。おれからすればただのガキだ。
いずれにせよ、剥製屋に目をつけられたのは厄介だ。ウォルターの件も含めてダニングのおやっさんを頼ったほうが賢明だろう。剥製屋グリンウォルドは一介のデバッガーの手に負えるような相手ではない。
おれは携帯電話を取り出してダニングのおやっさんにコールした。
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