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おれは親の職業なんか知らなかったし聞いたこともなかったが……いや、忙しくてまともに会話をする機会すらなかったのだろう。ともあれ、互いに仕事で忙しいこの両親にとって、おれは形式的に作った子供でしかなかったようだ。
何より、金さえあれば子供の代わりになる人造人間なんて、都合のいい時に都合のいい性格、都合のいい年齢で作ってもらえる世の中だ。正直いっておれは、子供心にこんな両親なんて金だけ残して消えてくれればいいなんて思っていた。それだけで生きていけると思っていた。
あいつが現れる瞬間までは……
照明が落とされた部屋では、ケーキに差された十二本の蝋燭が、バースデイソングを歌う両親の顔を、まるで能面のようにゆらゆらと照らす。おれがわざと勿体ぶってからケーキの蝋燭を一気に吹き消すと、両親からの拍手喝采を受けて、部屋の照明が灯された。
「お誕生日おめでとう刀治」
両親の手からクラッカーが弾ける。
とりあえず息子として形式的に照れてみせると、おれは母親にすすめられるがままに彼女お手製の味のしない料理を口に運んでいた。その最中だった。突然、父親ご自慢の芝生をのぞむ窓ガラスが激しく音をたてて割られた。
「愛がないねえ」
風に舞うカーテンから覗いたそいつは、おれと同じ年格好の少年だ。だが、おれよりも枯れた声をしていた。黒く湿った海藻類のような髪を伸ばした不気味な奴だった。やけににやにやと妙な笑みを浮かべている。
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