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その侵入者が不敵に目を見開いてみせると、その瞳は薄い紫色の歯車模様の瞳孔をしていた。
人造人間は生体繊維によって形成された外皮を持ち、人工臓器も人間への移植が可能なほど精巧にできている。それどころか、クオリア・インダストリアル製の自律分散的無意識と受動的意識からなる自我を非線形関数として演算できる最大出力二十五ワット、記憶容量二ペタバイトのコネクショナイズ人工脳と電子反射弧人工脊髄によって作られた心は些細な挙動のひとつひとつまでもが人間のそれと同じだ。つまり、この特徴的なアイタイプは人間と人造人間を区別するための唯一の目印というわけだ。
母親が悲鳴をあげようと息を吸い込むが早いか、侵入者は目にもとまらぬ速さで彼女の背後に回り込み、セレーションのほどこされたサバイバルナイフで喉を裂いた。おれの母親は、今にも出そうとした大声の代わりに大量の血液をテーブルの上のケーキに向かって吐き出した。そして首から信じられない量の血液を噴霧し、人間スプリンクラーと化して血の海に沈んだ。
おれは何が起こったのかもわからず、ただ赤く染まったケーキをながめていた。あの時の感じはまるで、おれの感情がおれを置いて一人で逃げていきやがったようだった。おかげでこの時のことは今でも驚くほど鮮明に覚えている。
父親はといえば、ケーキナイフを両手で握りしめ、「来るな……来るな……」と、うめきながら、震える足で後ずさる。侵入者が父親を見てにやりと口許を歪めると、父親はまだ何もされていないにもかかわらず、短い悲鳴をあげて何もないところでつまずいた。彼が尻餅をついた頃にはケーキナイフは手から滑り落ちていた。
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