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そして次の瞬間、侵入者の手から離れたサバイバルナイフの刃が父親のみぞおちに深く沈んだ。父親はそのまま仰向けに倒れると、まだ息があるのか浅く呼吸をしていた。
侵入者はそれを取るに足らない虫けらのように無視し、おれの向かいの席についた。
「おまえに愛はあったかい?」
と、侵入者はおれに問いかける。おれが何も答えられずにいると、侵入者はさらに続ける。
「親を愛さない子は悪い子だ。おまえはもっと自分の親を愛すべきだったんだ。死者は尊い。死者は愛されるべきだ。死者は誰にも蔑まれない。だろ? さあ、愛せよこの親を。おまえは許されたんだ」
それだけいい残して、侵入者は割れた窓から夜の闇に消えていった。これが、おれと奴――イカレた殺人鬼ラブレスとの出会いだった。
2
人造人間の精神は必ずしも完璧ではない。人造人間にはまず、個々の目的に応じた初期年齢がある。そこに、相応の記憶と精神的アルゴリズムが与えられて、奴らの自意識が形成される。
つまり人造人間には初期年齢以前の過去がないにもかかわらず、擬似的に過去の記憶と人格が刷り込まれている。これによって一部の個体は自らの存在に疑いを持ち、高い学習能力と相まって定められた精神的アルゴリズムを崩壊させてしまうといった症状を引き起こす。
おれ達はこれをバグと呼んでいる。
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