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すると、店主の婆さんが無言でおれの目の前にチンタオ・ビールと皿に盛られた茹で海老を置いた。遺伝子ソースから再現されたジーンハック食用海老だ。ジーンハック食用海老はひとつひとつ殻が剥かれていて、うまそうに火照っていた。これは常に作り置きがある最速メニューのひとつだから、茹でたてにありつけるのは運がいい。おれはチンタオ・ビールで軽く口をうるおしてから、ジーンハック食用海老をつまむ。
飯を食いながら何気なしにテレビを見ていると、このつまらないコメディアンの名前は何だったかと気になりはじめる。コメディアンの名前なんて心底どうでもいいことだが、それでも一度気になりはじめると出てこないのは気持ちが悪いものだ。
婆さんにでもたずねてみようかと思って厨房を覗いてみたが、婆さんは忙しそうに火を噴く中華鍋を振るっていた。
こうなるとこのコメディアンの名前が一層気になる。どうしてこんなつまらない奴のためにもやもやしなければならないのか。
しかしまあ、黙って見ていればそのうちテロップでも入るだろうと、テレビに視線を戻した。するとどうした。突然画面が全然違う場面に変わった。警告音とともに右上に緊急速報の文字が表示される。テレビに映し出された場所はこの近くのアパートだ。翡翠のような瞳をした人造人間アナウンサーがいった。
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