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洗面台で顔を洗って歯を磨きながら、隣で髪を解かしているカオルの姿を見て、流れるような艶やかな黒にある種の感動を覚え手が止まる。
「?」
それに気づいた彼女は小首を傾げてどうしたのかと俺に疑問を投げ掛けてくるようなので、口を濯いでタオルで口元を拭いてから「綺麗だなって。思わず見とれてしまったよ」と臭い言葉を吐いてしまう。
「そ、そう……私あ、あんまり意識したこと……なくて」
地球上の学校で野郎連中が、彼女が道行くたびに「やっぱ黒髪だよな」とかよく言っていた気がする。奴らの気持ちに初めて共感できたかもしれない。
彼女の友人たちも羨ましそうにしていてどうしてるのか、よく聞いていた気がする。縮毛矯正やストレートパーマを掛けてる訳ではなく、天然物だからこそ映えるというか、余計に希少価値を上げている。
言われ慣れてるものだと高を括っていたが、言い淀む彼女の表情と髪を解かす動作、何気ない仕草から照れと他の感情が入り雑じっているようだ。
本人は大したことないと普段から思っていても他人から指摘されたり、褒められたりするとこんな感じになるかと深く踏み込まず、終わるまで待つ。
細かいところが気になって、何でも知ろうする姿勢は物事によっては称賛に値するものだが、それが仇となることも嫌悪されることもあるのだと、自分を戒める。
しかし、後ろ髪と鏡に映る前髪の両方を堪能できて眼福であった。髪を解かしている間に心を落ち着け、平素の状態に戻った彼女の冷厳な雰囲気がまた似合っていた。
野郎なら間近で見れるだけで手を出してしまいそうな、人を狂わせてしまう魔性の魅力が彼女には備わっているようだ。
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