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『──初期化終了、初期化終了。お疲れ様でした、マスター。それでは良きダンジョンライフを……』
何をふざけたことを言っていると、怒りと憎しみが俺の心を支配する。ただ、苦痛に気を失った少女を支えている腕に力を籠める訳にもいかず、自身の無力さを呪うばかりだ。
俺は彼女を仰向けにして腕を組ませ、楽な姿に変えて、自分の膝に彼女の頭を乗せて寝かせる。苦痛から解放されて僅かばかり安らいだ顔を見て心が落ち着く。
あの玉の言っていたことを整理すると、ここはダンジョンで、マスターに選ばれたのは俺ではなく彼女。意志の有無関係なく強制的に迷宮の主へと仕立て上げられた、と見ていい。
そして、俺はあの玉に相手をされていない。それどころか触れることも出来なかった。手を近づけるという動作も、触れるという動作も、破壊するという意思も不思議な何かによって封じられてしまう。
つまり、俺には彼女をダンジョンマスターという役から下ろすこともできなければ、ダンジョンを破壊することもできない。
出入口を見つけて彼女を連れ出して逃げるか?という選択肢も思い付くが外が安全である保証はないし、仮に人類が存在していたとして、対話することは可能なのか、交渉できるほどの立場に俺たちはいるのか、という懸念材料が常につきまとう。
俺は、この子見捨てることはできない。見捨てるくらいなら、あらゆる業を背負ってやる。
だから、この俺『シン』は、この閉ざされた世界でただ一人、この子に我が血肉一片まで捧げる。そう心に誓ったのだった。
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