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───私は夢を見ていた。それは遠くない過去のある日、親に呼ばれ、黒のボールペンを手渡され、用意された書類に自分の名前と拇印を押せと言うのだ。
それは私にとって死刑宣告に等しいものだった。けれども、私は歯向かうことできずな涙ながら親の言う通りにした。あの人たちの顔を見ることは出来なかったが、恐ろしく満足気な表情をしていたと思う。
生の価値とは何なのだろう。生まれてから死ぬまでの道筋は決められていて、逆らうことは許されない。私の生きている意味も、生きていた意味も全てそこへと集約される。
私の恐れた日は、平穏無事に過ごすだびに強く意識させられた。
『シン』と呼ばれた少年と出会い、私の心はいつも乱されていた。
恐れた日が刻一刻と近づくなか、私は勇気振り絞って、彼の前に立った。そして、訳の分からない内に世界は暗転した。
その日まで話したことはなかったというのに、当たり前のように気安く触れ合っていて、それが心地良かった。
しかし、それは直ぐに終わってしまう。
私は、あの漆黒の宝玉に『ダンジョンマスター』と呼ばれたかと思うと、整理しきれない大量の情報が頭に焼き付き、次に肉体に激痛が襲いかかり悶絶し、そこで意識が途切れた。
私の頭が何か温かなモノに沈んでいることに気づき、目を開けると「おはよう」と一言、『シン』は声を掛けて、私の顎に手を添える。
他人に触れられているのに、彼の手を退かしたいとは思わない、変な気持ちにさせられる。
呆然と彼の顔を見つめていつまでもそうしていてほしいと思っていると、自分の頭を上げて立つまで彼は動かずにいてくれたのだった。
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