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あれからどれくらい、うつらうつら、していただろうか? さっきよりも、体が楽な感じがする。
熱が下がったからかなと思い、額に手を当てると、大きな冷却シートが貼られていて。同時に鼻をくすぐる良い匂いに、途端にお腹がグルグルと鳴った。
そっと起き上がり、台所に視線を飛ばすと、山上先輩のみたいな大きい背中が目に留まる。
くっと息を、一瞬飲み込んだ。死んだ人間が、ここにいるわけないんだ。なら、あの大きな背中は――
「つ、翼ぁ!」
気がついたら台所までまっしぐらに足取りがフラフラな状態で駆け出して、その広い背中に、ぎゅっと抱きついた。
「ちょ、マサ危ねぇだろ。俺、包丁持ってんだぞ。早速、料理されたいのか?」
生で聞く、バリトンボイス。いつもはスマホからなので、かなり感動ものなのである。
じーん……
「翼になら、料理されてもいい」
「可愛いこと言ってもな、鼻水垂らして病人丸出しのお前は、食材にすらならん」
包丁片手に、箱ティッシュを手渡してくれた。
「ありがと……」
上目遣いしながら、鼻をズビズビかむ俺を、呆れた顔して眺める翼。
「ここ3日ほど、メールしても、電話しても無視を決め込むから、仕事が立て込んでるんだなぁと思ってたんだ。そしてさっき、関さんからのメールで、マサの体調不良を知ったわけ」
「いつの間に、関さんとメアド交換したの? 確かに今日帰る時に、大丈夫かって声をかけられたけどさ……」
しかも今日風邪をひくなんて、タイミングの悪い奴だな。と、憐れみの台詞を言われたのだ。
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