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「おいマサ、メシ出来たから出てこい」
布団の外から翼の声が聞こえたので、モゾモゾと這い出て、テーブルの前に正座した。出来立てのおじやが目の前で、美味しそうな匂いを放っている。
「熱そうだね……」
「ああ、だから気をつけて食えよ」
向かい側にあぐらをかいた翼が目を細め、優しい表情を浮かべて俺をじっと見た。その目を見つめ返しながら、思い切って、して欲しいことを告げてみる。
――だって俺は、病人なんだし。
「あの、ね翼。フーフーして、食べさせて欲しい、です……」
「いい大人が、何を言ってんだか。どこまで、手をかけさせるつもりなんだよ」
「だよね、ごめんごめん。調子に乗りすぎちゃった」
慌てて右手にレンゲを持つと、その手から奪うように引ったくった翼。
「しょうがないヤツ。ほら、隣に座れよ。食べさせてやるからさ」
「翼……ありがと」
喜び勇んで、いそいそと隣にちょこんと座った。そんな俺の様子を見て、苦笑いをしながらフーフーし、一口ずつ食べさせてくれる。
「ホントに初めて作ったの? すっごく美味しい」
モグモグしながら感動してると、ちょっとだけ照れながら、
「ま、これがバレンタインのお返しということで、ヨロシクお願いします。お粗末様」
ペコリと頭を下げる。
(バレンタインのお返しって、あれ?)
「今日ってもしかして、ホワイトデー……?」
だから今日風邪をひくなんて、タイミングが悪いと、関さんが憐れんでいたんだ。
ガーン。俺ってばお返し、何も用意していないじゃないか。
「どうした? 赤くなったり青くなったり、忙しいヤツだな」
「ホント、見かけによらず翼ってば、意外とマメな男だよねぇ」
バレンタインのときも、正直ビックリした。まさかチョコを貰えるなんて、思ってもいなかったから。
「見かけによらず、お前が大雑把だからだろ。俺は勝手に、ホワイトデーの徴収するから、気にすんな」
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