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桜さんはあの後すぐにアメリカに出張で発ってしまった。
あの電話は急な出張の連絡だったみたいだ。
だから私も桜さんと会っていない。
期間は二ヶ月ちょっとだと聞いたけど、仕事の関係でそれ以上になるかもしれない。
旅立つ前に一度だけメールが来て、日本に帰ったら両親に会わせたいという内容だった。
でもその事について、私はメールで丁重にお断りした。
……だって、私にはもう全くその気がない。
桜さんが帰って来るまでに、気持ちの整理もつけたかった。
そうこうしているうちに、教育実習の初日がやってきた。
―――――……
「えーと、○○大学から教育実習にやって来ました沢村優陽と言います! 担当教科は古典です! よろしくお願いします……」
こういう自己紹介的なものは苦手だ。
チョークを持つ手が震えている。
キレイな黒板に自分の名前を刻む字がミミズみたいになっている。
……緊張して、足までガクガク震えてしまっていた。
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