第一話『戦友との再会』

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「凄そうなところだね」  いかにも古くから存在していると誇示するような出で立ちに思わず呟くクリス。そよぐ風は心地よいが、その優しい気流だけで遺跡の表面がパラパラとこぼれていく様を見て若干不安になる。もしかしたらこの遺跡はいつ崩れてもおかしくないほど老朽化しているのではないだろうか。 「兄さん、あれ見て」  隣に立っていた妹を見下ろす。ノエルはクリスとは逆に地面を見ていた。疑うことなどなく素直に妹の見ているものを見る。地面もやはり苔や蔦が蔓延っている。木の葉も無数に舞い、雨が降ればさぞ滑るだろうと感想を抱く。  そこまで見て、妹が伝えようとしているものに気づいた。 「足跡?」 「うん」  大きさからして男だろう。クリスの靴よりやや小さい程度か。その足跡は二人の来た道からずっと続いており、まっすぐに遺跡の中へと歩いている。 「噂の、青の賞金稼ぎさんかな? 帰りの足跡が見当たらないから、きっとまだ中にいるだろうね」  そう口にしてから先に前へ出る。クリスが前を歩き、ノエルが後ろを警戒する。二人の探索時の常だ。周囲を十分に警戒して進むことで後方は比較的安全。対して危険な前方には即時の反応が必要となる。その点に関し、詠唱や性質変換が必要となる彪術は即対応という言葉が最も縁遠い。むしろ彪を込めておき、トリガーを引くだけの銃の方がよほどいい。  遺跡の内部は外と比べて綺麗な形状を保っていた。蔦や苔は依然としてびっしりとあるものの、それが内部に達し強度を損なわせている様子はない。拳で軽く壁を叩くが、頑丈な石材らしい音が帰ってくるだけで不安を煽るような音はなかった。  ここはエントランスか。入り口から見た通り、横も奥行きも相当広い。四方十五メートル前後はありそうだ。  後ろで杖を展開済みの妹に一度視線を向けてから前方に目を。普段の歩行速度の半分程度まで落として進む。こういった建物には隕獣が入り込んでいることも少なくない。村人達の話からしてここへは訪れることもあるようだが、道中で隕獣と遭遇したことを考えると、ここへ来る時は護衛を伴っているのだろう。この遺跡では祈りごとをする際に利用するらしいが、それでも入り口までしか基本来ないらしい。
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