第一話『戦友との再会』

10/26
前へ
/51ページ
次へ
 エントランスを抜け、廊下に出たクリスは周囲に視線を配りながら二挺の銃に彪を込め、左右に点在する分岐点や前方に警戒する。二人の足音と息、衣擦れの他に何かが聞こえる様子はない。隕獣を警戒するにあたり、実はひとつだけありがたい点がある。それは隕獣達の息が荒々しいことにある。人間の恐怖を煽るそれは時として影に隠れることの無意味さを誇張してくれる。そのため死角の横道に隕獣がいたとしても耳を澄ませていれば不意打ちを食らうということはなくなるのだ。  右手に見つけた部屋に入り、何もないことを確認する。扉のない地続きの部屋だった。  続けて廊下を進み、次の部屋、次の部屋と探索しながら、この建物の構造がすべて垂直な面同士による正方形の構造をなしていることに気づいた。正方形の床一辺と同じ高さのある部屋。小さな部屋ではその分天井も低く、外観と天井の高さを比較すると少なくとも二階はあるはずで、そうなるとこの上の階層では床がどうなっているのだろうと思考する。  開け放たれた入り口から吹き込む土が汚す床の上にいくつも足跡がある。ここを訪れた者達の名残に違いない。ただ、その上に真新しい足跡が認められる。  途中の部屋は念のために確認していたが、足元を見るにその必要はなさそうだった。足跡はすべての部屋を見て回っているようだが、どれも慌てて走っていた様子はなく、一定の歩幅を刻み続けている。部屋の中も、グルリと室内を一周したものもあれば入り口で踵(きびす)を返し先へ進んでいるものもある。本当に何もないようだ。時折足跡が見えないほど荒れていたりするのは隕獣と戦闘に入ったからかもしれない。血の臭いに誘われて続々と続いてきたのか人のものではない足跡も複数見受けられたが、お陰で隕獣と全く遭遇しない。先に進んだ人も問題なく勝ったらしく足跡はそのまま続いていた。 「ノエル。この辺りは安全そうだから、足跡を追っていってみよう」 「わかった」  一つ返事で了承。クリスはノエルに頷き返し、横に点在する部屋を警戒しつつも足跡を辿っていく。  分かれ道では足跡が左へ行き、戻ってきて右へ。そしてもう一度左へ歩いていることがわかりそのまま左へ折れる。  この遺跡は村人達が訪れている。そして奥へは誰も踏み入れていない。かつての研究施設ということは、古代の技術の遺品が残っているかもしれない。 「兄さん、あれ見て」
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加