第一話『戦友との再会』

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「え?」  迂闊にも思考に優先度が走り、惰性で足元の道標を追いながら前方への警戒を蔑(ないがし)ろにしてしまっていた。慌てて構えていた銃と前方へ意識を移す。  通路の先にあったのは扉だった。重厚そうな石でできた扉だ。高さ三メートル、横幅が一枚で一メートルもある、両開き扉だ。手前に開け放たれた両開き扉の厚みは三十センチ程度。並の人間が開けることができる重さではなさそうだ。  噂に聞いていた扉がこれだとすると、この先へ歩いて行っている足跡は間違いなく青の賞金稼ぎ。クリスよりも幼い子供にこれの開閉が可能とは思えない。  どこかに仕掛けがあるのだろうかと扉の近くの壁や床を調べるがそれらしい物は見当たらなかった。もしかすると、ここで行き止まり、先の分かれ道の右へ進んだ先にここの扉を開ける何かがあったのかもしれない。 「ここから先は危険が多くなるらしいから、気を付けていくよ」 「うん。兄さんも気を付けて」 「ありがとう」  可愛い妹に謝辞を述べ、扉の先へ足を踏み入れる。扉を隔てた先は埃が凄まじかった。床は白い絨毯が敷かれているのだと錯覚してしまいかねない。ただ、一直線に進んでいる先駆者の足取りが埃を引き取り冷たい床石を露出させている。あまり派手に動いては埃が舞い上がり肺に侵入しかねない。静かに動くのが得策だろう。  ソロリソロリと進んでいくと、靴型に埃が削られた床石の一つが無自然に沈んでいた。その幾本もの矢が落ちており、左の壁には小さな穴がいくつも空いている。あの床石を踏みつけたことで罠が作動し侵入者を攻撃したのか。矢じりに赤い液体がこびりついている物もあり、先立っている者を傷つけたことが窺える。反射的に後ろへ跳んだのか、へこんだ石より手前の床の埃がごっそりと抉られていた。飛び退き、転倒したのだろうか。 「……」 「大丈夫だよ。ここから先に血が落ちてる様子はないし、傷は浅かったんだと思う。旅人をしながらギルドで稼いでる人ならハーブなんかの類だってきっと持ってるさ」 「うん……」 「でも、この先で会えたらヒーリングをかけてあげよう?」  ノエルが頷く。一度後ろの低い頭を撫でてから進行を再開した。  ここから足跡の歩幅は随分と小さくなっていた。床石を跨ぐ勢いだったにも拘らず、罠があった場所からは床石に合わせて歩を進めている。さらに、一定の間隔で石畳一つ分を跨いでいた。 「うーん」
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