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床の埃が舞い上がり、機械兵のせいで意識が薄まり罠を作動させてしまっているものもある。しかしそれでもこの足跡は奥へと進んでいた。
「ん?」
「? どうしたの、兄さん」
不意に兄が立ち止ったせいでその背中にぶつかりそうになったノエルが首を傾げた。
「何か聞こえないかい?」
「ん……」
問いかけられてノエルは目を閉じ耳を澄ます。尋ねた本人も前方を警戒しながら耳に意識を傾けた。
そうすることで聞こえてきたのは、激しい金属音。別の言い方をするならば、戦闘音だ。気づいたノエルが兄を見上げて焦り気味に言った。
「この先で戦ってる!?」
「みたいだね。急ぐよ、ノエル」
言うが早いかクリスは走り出した。すぐ後ろをノエルが続くことを気配と音で把握しながら、足跡を頼りに右へ左へと進み続ける。
そうして辿り着いたのは、大きく開けた場所だった。一番最初に目についたのは、開けた空から降り注ぐ陽光を浴び無数の青い葉を輝かせて堂々と立つ大きな樹。かなり深い沼の底が見えるほど透き通っている水に囲まれた、島のようなところにそれは生えていた。五十メートル四方のこの広場の空を覆いつくすようにして枝葉を伸ばすそれは、天然の屋根のようにも思える。その樹木の正面には何やら白い石碑があるが、今はそこまで注視している余裕はない。
広場の入ってすぐのところで、巨大な機械兵が立っているからだ。 前に傾いた横長な板状の体を左右三本ずつ生えた足が支えている。脚の付け根よりも上に生えた、大きなはさみを支える支柱は威嚇するように振り上げられ、身体の上に取り付けられた目の働きをする器具は赤く光っている。
海辺などに住む者であれば、ある生き物を連想したに違いない。
体よりも上に持ち上げられている二つのはさみは人の体など一撃で両断してしまいそうだ。それが機械の強さだと知っているクリスとノエルは身の毛がよだつ思いだった。
対してその機械兵を正面から見上げているのは、灰色のフーデッドローブを着込み、頭まですっぽりと覆い隠した人型の何か。その手に提げられているのは、湾曲した刃を持ち、真っ直ぐな峰をした片刃の剣だ。ファルシオンと呼ばれるそれに近くも見える。腹に見える無数の傷がその剣の経歴を語っているが、しかし磨き抜かれた刃は鋭く輝いている。
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