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石造りの部屋の中は暗く、開け放たれた扉の外から覗く光が内部を照らす中で、何者かが室内で大量の物品を漁っていた。部屋の外には赤い鎧を着こんだ騎士が、武器を片手に仰向けに倒れている。兜から覗く顔は間抜けな顔を晒して気絶している。
「んー、何かいいものねえかなあ」
大きな木箱をガサゴソと音を立てて物色する、黒い長袖のシャツに踵(かかと)まであるズボン、似たような色の靴で身を包んでいる男の口から出る息は白い。
「しまったなあ。蔵から出せないことを想定してなかった。まあ初めてだし、今回は教訓とするとして……このままじゃ風邪引いちまうな」
男が暗がりの中で振り返り入り口で倒れている騎士を見、それから首を横に振った。
「こんな状況で着ているものをはぎ取るのは酷だな。ここは倉庫みたいだし、その場しのぎでいいから羽織れるものが欲しいんだけど……お」
男は目宛ての物を見つけたのか、明るい声を出して木箱から手を引っこ抜いた。その手に握られているのは、黒い大きなマント。いや、コートか。派手な装飾はない、ただの厚手の黒いコートだ。男はさわり心地を確かめ、埃っぽさを感じて軽く振るうと袖を通した。地面まで届きそうなほどに丈が長く、保温性が高い。開いている前を閉め、肩をグルグルと回して動きやすさを確認する。
「まあこんなもんか。必要があればどっかで手に入れるとして……黒龍」
男が右手を何もない空間に突き出し、なにかの名前のようなものを口にする。直後、彼の手には黒く長いものが握りしめられていた。漆黒の長い何か。
今では収束器(デバイス)という、画期的な武器のシステムがあるために廃れていった、剣をしまっておくという昔の入れ物。鞘(さや)。
握りしめられたセルガイアの遺物から、同色の柄を左手で握りしめ、素早く引き抜く。摩擦で剣身が鞘と音を鳴らし、現れた反りのある黒い片刃を男はじっと見つめた後に小さく笑う。
「こっちに関しては問題なし、か」
剣と鞘から手を放すと、どちらも不意に虚空へと消える。収束器も似たようなものだが、それは基礎状態に戻すだけで消えるわけではない。つまり彼の出した武器は収束器ではないのだ。
「まずは情報収集だ」
バサリ、と裾を翻し倉庫の外へと出た男はツンツンとした黒髪をなびかせ、その下にある同色の瞳を悪戯っぽく細めた。
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