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ガタゴトと揺れる護送馬車。木立ちの間を馬車が何度も通り抜け、草は潰れ、地肌がむき出しになっている。小石や何度も車輪や蹄鉄が踏みしめることでできた固い地面が乗り心地を悪くするが、それでも馬車で数時間かかる場所を歩いて渡るよりはずっといい。御者席に一人、馬車の後ろの席に二人、護衛が座して馬車の周りを警戒している。五度ほど隕獣の襲撃があったが、三人の活躍により乗客六人は無事で、三度目以降は護衛達の安定した戦闘に不安はなくなり恐怖を顔に張りつかせることはなくなった。
「もうすぐハルベ村に着きますよー!」
御者が声高らかに乗客達にそう告げる。反応した乗客達が窓から顔を出し、進路上に見えた家屋に騒いだ。
「こらこらノエル、あんまり大声を出したらみんなの迷惑になるよ」
嬉しそうに歓声を上げていた赤髪の少女は同色の髪をした年上の男性に窘められ、頬を赤らめながら顔を馬車の中に戻して他の客や護衛達に頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!」
素直に謝る少女に他の乗客達も嫌な顔をすることはなく、むしろ好感が持てたようで微笑みながらそれぞれ優しい言葉を返した。
「よかったね、ノエル」
赤髪の青年に頭を撫でられ、少女は恥ずかしそうに頷く。
「お二人さんは兄妹なのかい?」
顎髭を蓄えた老人が二人を見つめながら問いかけた。ええ、と青年が答える。
「僕はクリスと言います。この子は妹のノエル。二人で探し物をして色々なところを旅しているんです」
「そうかいそうかい。うちの村で探し物は見つかりそうかい?」
その言い方から老人がハルベ村の人間であることを察し、青年はうーんと喉を鳴らす。
「どうでしょう。手がかりも何もなしで探し回っているので、なんとも」
「そうかいそうかい。それじゃあ、お二人さんの探し物が見つかることを祈っとくとしようかね」
ありがとうございます、と少女が元気よくお礼を言い、馬車の中の空気は一層和やかなものとなった。
それから十分、馬車は無事にハルベ村へと到着し、客を下ろした御者は護衛達に報酬を支払い、御者席に乗ったまま馬車庫へと入って行く。乗客達は兄妹以外は皆この村の住人だったようで、軽い挨拶をしながら散り散りになっていった。
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