第一話『戦友との再会』

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 護衛達は雑談を躱しながら宿屋へと入って行く。  その場に残された兄はまず空を見上げ、だいぶ傾いた太陽を確認してから妹を見下ろし、 「さて、時間も遅いし今日は休もうか?」  と問いかけた。しかし妹は首を横に振る。 「まだ宿屋に入るには早いし、少し情報を集めてからしようよ」 「ノエルは頑張り屋さんだな。わかった、じゃあ日が沈むまでにしよう。無理をするのはよくないからね」  素直に頷く妹の頭を撫で、酒場へと向かう。  青年の名はクリス・シェーラー。少女はクリスの妹のノエル・シェーラー。二人はあるものを求めて世界を巡り歩いているのだ。旅を初めて半年ほど経つが、探し物の噂はこれまでに一度も聞いたことがない。そのため、大きな街から外れの小さな村まで虱潰しに渡り歩き、情報を集めているのだ。  普段は護送馬車で旅をし、ギルドの仕事で路銀を稼いでいるが、二人も先の護衛達と同様武芸者であり、時には護送馬車の護衛をすることもある。二人の腰に提げられたホルスターから覗く、待機状態の収束器(デバイス)が彼らを武芸者であることを知らしめていた。  武芸者、つまり戦う技術を有する者。何と戦うのかと言えばこの惑星セルガイアに存在する星の敵、隕獣とだ。  惑星セルガイアには三つの大きな大陸があり、彼らが今いるのはサーヴィン大陸のレストリア国である。  およそ五百年前のことになる。巨大隕石が地表に落ち、落下時の莫大なエネルギーによってセルガイアは多大な被害を受け、惑星セルガイアの地表に住む多くの生き物が死滅してしまった。そこへ追い打ちをかけるように紫色の異形の怪物、隕獣が姿を現し世界はひどく住みづらいものとなってしまった。大型の肉食動物ですら到底歯が立たないほどの強さを持ち、獰猛で凶悪な隕獣。  ただ、隕獣に対抗する手段がないわけではない。人間の体内には『彪(ひょう)』と呼ばれる力が流れており、人によって個人差はあるものの、その力は誰もが使えるもので隕獣とも戦う最大の武器である。  収束器とは遥か昔から作られていた人間達の武器の名称であり、持ち歩く時は手のひらに収まる程にコンパクトだが、キーワードとなる言葉を口にすることで空気中に漂う必要な物質を引き寄せ形成、武器をその場に作り出す代物である。
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