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「ノエル?」
「え?」
もう一度呼びかけると今度は反応し兄に視線を返した。だがその顔は依然として晴れていない。
「どうかしたのかい?」
「うん……村で色々聞いたけど、その賞金稼ぎの人のことを考えてたの」
「ノエルは優しいな」
ノエルの横へ腰をおろし、クリスは妹の頭をそっと撫でた。
「明日遺跡へ行って、もしその人に会えたら少しお話でもしてみようか。旅人同士、きっと盛り上がることもあるよ」
頷く妹を見下ろし、しかしきっとそんな明るいことにはならないだろうと予感をしながら眉をひそめるのだった。
翌日、アイテムに装備、情報、食料や水などを十全にし、何も抜けがないことをしっかりと確認をして二人は村を出た。目的地は小さな山をグルリと周り込んだ先にある、ハルベ遺跡である。徒歩で一時間程度の距離ということで、村の近辺を記した地図を手に二人は外を歩いている。山と森に挟まれた狭い道を進むこと二十分、やはり何事もうまくいくことばかりではない。
森から獣が現れたのだ。紫色の体毛に覆われた、それなりに長身のクリスを上回るほどの体躯の熊。間違いなく隕獣だった。
「ノエル!」
「うん、わかってる」
名を呼ぶだけで意図を察してくれるのは、ずっと一緒に戦ってきたからに他ならない。全幅の信頼を寄せてくれる妹を彼もまた信じ、左右の腰に提げられた基礎状態の収束器をホルスターから抜き出し叫ぶ。
「顕現!」
直後、彼の手の中の二つの塊は光を散らし、次の瞬間には大気中に散布している鉄などを掻き集めて拳銃の形を成していた。二丁の銃を手にクリスは前へと走る。背後でノエルが同じようにワードを唱えているのを耳にしながら右手の銃を熊へと向け、銃の内部にチャージされた彪の弾丸を発射した。
短い発砲音と共に隕獣の顔に着弾して弾ける。大したダメージは通っていないがこれでいい。こうすることにより背後で杖を握りしめる妹ではなく、前に出ているクリスが隕獣の注意を引けるようになる。
雄叫びを上げ、怒りのまま本能のままに太く凶暴な爪を振り下ろしてくる隕獣の攻撃を横に跳んで躱しながら銃弾をばら撒き、その太い脚を執拗に攻撃する。同じ場所を攻撃され続け隕獣がクリスに飛びかかろうとするが、脚に蓄積されたダメージが影響しその場に倒れてしまった。
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