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誤魔化す痛み
「あーじめじめする。毎日毎日嫌んなるよなー。」
学校にもだいぶ慣れ始めて来た梅雨の終り、放課後の廊下を涼と共に部室へ向かう。
生徒用の玄関に目を向けると少し人だかりができていた。
どうやらカップルの修羅場のようだ。
なにもこんなところで喧嘩しなくても、そんな事を思う。
「あれ、中宮先輩じゃね?」
そんな涼の声に驚き、男の方をよく見ると、確かにそれは中宮先輩だった。
俯いている先輩を見て胸がざわつく。
その場にいるのがいたたまれなくなって、靴を履き替えると、外に向かう。
「海君、聞いてる!?」
すれ違いざまに、顔をあげた先輩と目が合う。
その目が少し赤くなっている様に見えて、僕は悲しくなった。
僕だったらあんな顔させない。
僕だったら先輩を大切にする。
僕だったら、僕だったら、僕だったら…
部活の間、そんな事がずっと頭を回る。
でも別れて欲しい訳じゃない、ただあの人が幸せならそれでいい。
僕は中宮先輩が笑っているのを見るだけで幸せなのだから。
もし彼を一番に愛する権利をもらえるなら、僕はこれ以上ないくらい幸せ者だろう。
その日、先輩は一度も部活に顔を見せなかった。
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