誤魔化す痛み

1/5
前へ
/19ページ
次へ

誤魔化す痛み

「あーじめじめする。毎日毎日嫌んなるよなー。」 学校にもだいぶ慣れ始めて来た梅雨の終り、放課後の廊下を涼と共に部室へ向かう。 生徒用の玄関に目を向けると少し人だかりができていた。 どうやらカップルの修羅場のようだ。 なにもこんなところで喧嘩しなくても、そんな事を思う。 「あれ、中宮先輩じゃね?」 そんな涼の声に驚き、男の方をよく見ると、確かにそれは中宮先輩だった。 俯いている先輩を見て胸がざわつく。 その場にいるのがいたたまれなくなって、靴を履き替えると、外に向かう。 「海君、聞いてる!?」 すれ違いざまに、顔をあげた先輩と目が合う。 その目が少し赤くなっている様に見えて、僕は悲しくなった。 僕だったらあんな顔させない。 僕だったら先輩を大切にする。 僕だったら、僕だったら、僕だったら… 部活の間、そんな事がずっと頭を回る。 でも別れて欲しい訳じゃない、ただあの人が幸せならそれでいい。 僕は中宮先輩が笑っているのを見るだけで幸せなのだから。 もし彼を一番に愛する権利をもらえるなら、僕はこれ以上ないくらい幸せ者だろう。 その日、先輩は一度も部活に顔を見せなかった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加