誤魔化す痛み

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中宮先輩と電話をしてから数日、彼らが何とか仲を持ち直したと聞いた。 そうなるように仕向けた僕は、心の中にあるもう一つの黒い感情を閉じ込めた。 先輩は前以上に僕にかまってくるようになった。 明らかに他とは違う扱いに、嬉しい反面少し戸惑ってしまう。 優しい眼差しを向けられる度に期待してしまう自分に、嫌気がさす。 男同士でしかも彼女持ち、どう考えたって報われない。 そうやって言い訳をして、ただ自分が傷付くのを恐れた。 神様、どうか今の関係のままでいさせてください… 「楓さ、今日暇?もし良ければ一緒に帰らない?」 「えっ、彼女さんはいいんですか?」 「用事あるんだってー」 部活後、声をかけられる。 だめ?と返事を待つ中宮先輩に、いいですよと返した。 「もう夏だなー。夏の練習きっついぞ。」 「そうなんですか。」 緊張して上手く言葉が出ない。 だんだん日が暮れるのが遅くなってきた帰り道を、肩を並べ歩く。 通りかかった店の窓に夏祭りのポスターを見つけた。 町を総出で屋台を出すので、結構大きな祭りだ。 特に花火は、この辺りでは結構有名でとても綺麗なのだ。 「夏祭りか、楓行くの?」 「たぶん涼と行きますね。毎年涼と行くのが恒例なんです。」 そう言うと、先輩の眉間に少し皺が寄った。 「涼と仲いいよな。」 「? 幼馴染なんで。 先輩はやっぱり彼女さんと行くんですか?」 「…たぶん行かないと思う。」 少し言い淀んだ感じで返される。 そこからは当たり障りのない会話をし、別れ道に着いた。 「それじゃあまた明日。」 「あぁ…」 挨拶を交わし背を向けて歩き出そうとすると、パシッと腕を掴まれた。 「楓!俺っおれ、は… いや、何でもない。また明日な。」 そう言って去っていった先輩の姿が、いつもより小さく見えた。
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